
タキサン系抗がん剤(パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル)は、がん化学療法の中核を担う薬剤ですが、治療を継続するうえで問題となりやすいのが「末梢神経障害(Peripheral Neuropathy:PN)」です。本記事では、薬剤師として知っておきたいPNの発現特徴や対応のポイントを整理しました。
発現のタイミングと回復の経過
タキサン系抗がん剤による末梢神経障害は、累積投与量に比例して進行する傾向があり、治療終了後も数か月〜年単位で回復に時間がかかることがあります。特に重度(Grade 3)の場合、症状の改善に非常に時間がかかるケースが少なくありません。
初期症状の捉え方
PNは「手袋・靴下型」の感覚異常として自覚されやすく、以下のような日常動作に支障をきたすことで気づかれます。
- 箸やペンの操作が難しくなる
- ペットボトルのキャップが開けづらい
- ボタンの留め外しやファスナーの操作がしにくい
- 歩行時につまずきやすくなる、足元が不安定になる
- 口唇周辺の感覚の違和感
こうした動作変化は、早期発見のヒントになります。患者の生活習慣に即した聞き取りが重要です。
発症のメカニズムと薬剤ごとの特徴
タキサン系は微小管の脱重合を阻害し、細胞分裂を抑制する一方で、神経細胞の軸索輸送にも影響を与えます。
- パクリタキセル:総投与量700mg/m²以上でリスクが上昇。1回投与量が多く、投与時間が短い場合、神経障害が強く出やすい。
- ドセタキセル:パクリタキセルと比べて頻度はやや低め。総投与量400mg/m²超で重症化しやすい。
- カバジタキセル:全GradeでのPN発現は約14%(海外報告)。
また、治療早期に現れる筋肉痛や関節痛(1サイクル目から出ることが多い)と鑑別が必要です。こちらはNSAIDsや芍薬甘草湯での対処が有効です。
予防と早期発見の工夫
現時点でPNの有効な予防薬は確立されていません。ビタミンE、カルニチン、グルタミンなどは使用されることがありますが、明確なエビデンスは乏しいのが現状です。
代替的な試みとして、投与中のサージカルグローブや冷却グローブの使用、弾性ストッキングなども報告されています。
早期発見のために:
- NRSやVASを用いた評価(ただし心理的要因による変動には注意)
- 「新聞をめくりづらい」「字が書きにくい」といった生活の変化を聞き取る
- PNの専用評価ツール(PNQなど)の活用も有効
治療と薬剤選択の工夫
PNに対しての治療は、基本的に対症療法です。Grade2以上で減量または休薬の検討を始め、Grade3以上では中止が原則です。
鎮痛補助薬としては以下が使われますが、有効性と副作用のバランスを考慮した慎重な使用が求められます。
- プレガバリン/ミロガバリン:眠気があるため就寝前投与から開始。忍容性を確認しながら漸増。
- ガバペンチン:吸収飽和により効果に限界あり。
- トラマドールなど:強い疼痛時に選択肢となることも。
リスク因子と併用薬の注意
- 糖尿病や大量の飲酒歴はPN悪化のリスクとなる
- **プラチナ系薬剤(カルボプラチン、シスプラチン)**との併用で発現リスク増大
薬剤師としての介入ポイント
- 症状の確認は「しびれの有無」だけでなく、「どのような動作に困っているか」を具体的に聞き出す
- 生活背景(服の種類、趣味、家事内容)に合わせた聞き取りを行う
- 薬剤の副作用(例:眠気)について事前に説明し、忍容性の確認を伴いながら投与計画を立てる
- QOL低下を防ぐために、治療継続の「頑張りすぎ」を是正する声かけを行う
おわりに
末梢神経障害は、化学療法の継続において避けて通れない課題の一つです。薬剤師として、予防・早期発見・症状緩和のために、患者さんの声を丁寧にすくい取る姿勢が重要です。
