
やくねこ
今回は、プラチナ系抗がん剤による末梢神経障害は、臨床現場で頻繁に遭遇する副作用のひとつです。症状は累積投与量とともに進行するため、早期の介入と的確な患者指導が求められます。
発症時期と進行パターン
- 末梢神経障害は累積投与量に比例して進行します。FOLFOX療法では、約850mg/m²(10コース程度)がGrade2~3の神経障害のリスクラインとされています。
- 一度発症すると投与終了後も症状が持続・悪化することがあり、「Coasting」として知られます。
- 回復には数ヶ月~年単位を要することがあり、Grade3以上の重度の場合、不可逆的な可能性もある。
初期症状
オキサリプラチンに特有の「急性障害」
- 投与直後~数日間に出現。冷たいものに触れるとしびれ・痛みを感じる。
- 咽頭に圧迫感を訴えることもあり、「喉がつまる」「息苦しい」と表現される。
- 冷感刺激が誘因となるため、日常生活での冷たい飲食物への接触を避ける指導が重要。
慢性的な末梢神経障害
- 手袋・靴下をはいたような感覚、細かな作業が困難になる。
- 以下のような日常生活の支障が早期発見の鍵:
- 箸がうまく使えない
- 字が書きづらい
- ペットボトルの蓋が開けにくい
- 歩行中につまずきやすい
プラチナ系薬剤別の特徴
薬剤名 | 発症リスク/特徴 |
---|---|
シスプラチン | 200~300mg/m²以上で神経障害リスク増。聴覚障害(高音域)に注意。Coasting現象あり。 |
オキサリプラチン | 急性症状として冷感過敏が特徴。800mg/m²以上で発症頻度が高くなる。聴覚障害は少ない。 |
カルボプラチン | 神経毒性は軽微で、臨床上問題となることは少ない。 |
ネダプラチン | 神経毒性は軽微で、臨床上問題となることは少ない。 |
末梢神経障害の予防と対策
✅ 予防的介入の基本
- 日常的な**運動(ウォーキングなど)**が推奨される。
- ビタミンEやカルニチン、カルバマゼピンなどの予防薬の有効性は限定的であり、Routineには推奨されていない。
- 早期の発見と減量/休薬が最も有効な戦略。
【重要】Stop & Go戦略(OPTIMOX試験)
- オキサリプラチンを6コース投与した後、一時的に中止し、5-FU単剤で継続する方法。
- 神経障害の発現を抑えながら、治療成績を損なわないエビデンスあり。
急性障害への日常生活指導
- 投与直後5日間程度は冷感刺激を避ける生活指導を徹底する。
- 冷たい飲料、氷の摂取を控える
- 手洗いは温水で行う
- 寒冷時の肌露出を避ける
- エアコンの風に直接当たらない
治療方法と薬物療法の位置づけ
- 治療は基本的に対症療法。QOLやADLへの影響を重視し、Grade3以上では投与中止が原則。
- 鎮痛補助薬(プレガバリン、ミロガバリンなど)は眠気・ふらつきなどの副作用に注意しつつ、少量から開始・漸増投与が基本。
- トラマドールやミロガバリンは糖尿病性神経障害の知見も参考に選択。
- 牛車腎気丸のエビデンスは乏しく、Routine投与は推奨されない。
リスク因子と注意すべき併用
- 糖尿病や多量飲酒歴がある患者では、神経障害の進行が早まる。
- シスプラチンやカルボプラチンはタキサン系との併用で神経毒性リスクが増加。
患者指導時の工夫と薬剤師の役割
- 感覚症状は主観的なものであり、過小評価されやすい。NRSやVASだけに頼らず、患者の生活背景に応じた具体的な質問が有効。
- 例:「ボタンのある服は着ていますか?」「ペンは使いますか?」「お料理や裁縫はされますか?」
- 自動車運転への影響や転倒リスクについても早めに指導。
- 聴覚障害の可能性があるシスプラチンでは、説明時の声かけにも工夫(ゆっくり・低めの声で、アイコンタクトを取りながら説明)。
おわりに
末梢神経障害は、化学療法の継続やQOLに大きく影響を与える副作用です。薬剤師として、単に副作用をチェックするだけでなく、患者の生活に寄り添った観察・介入を意識することが求められます。
症状の“芽”を早期に見つけ、医療チームと共有することで、重症化の予防につながります。
