がん化学療法における下痢は、QOL(生活の質)を大きく左右する副作用の一つです。特に**イリノテカン(CPT-11)**に関連した下痢は、その発現時期や機序、対処法において独自の注意点があります。薬剤師として適切な知識と介入を行うためには、正しい理解が不可欠です。本記事では、イリノテカン誘発性下痢について、発現機序・対処法・患者指導のポイントを整理して解説します。
イリノテカンによる下痢は2種類ある
イリノテカンに関連する下痢は、発現時期により「早発性」と「遅発性」に分けられます。
1. 早発性下痢
点滴中または直後に出現する下痢で、多くは投与から数時間以内に起こります。このタイプはコリン作動性症状の一部として現れ、腹痛・発汗・流涙・徐脈などを伴うこともあります。
この機序は、イリノテカンがアセチルコリンエステラーゼを阻害することによるものです。
🔑ポイント:
- 予防的に硫酸アトロピン(0.25〜0.5 mg程度)を前投与することで症状の軽減が期待できます。
2. 遅発性下痢
投与後24時間以上経過してから始まる下痢で、時に重篤化します。治療2〜6日後に最も多く発現し、持続性のある水様便が特徴です。
遅発性下痢は、代謝物であるSN-38が腸粘膜を障害することにより発生します。腸内細菌によるSN-38の再活性化も関与しており、個人差が大きい副作用です。
重症化を防ぐ!下痢のセルフケアと薬物療法
下痢が起こったときの基本対応
下痢が始まった際は、早期に**ロペラミド(ロペミン)**の内服が推奨されます。
🩺 標準的な投与法(イリノテカン誘発時):
- 初回:4 mg(2錠)
- その後:2 mg(1錠)を2時間ごとに服用
- 最大投与量:1日16 mgを上限とせず、重症例では最大48時間継続可
※一般的な下痢の適応とは異なり、「48時間継続投与」も安全性に配慮して許容されます。
また、下痢が24時間以上続く、発熱や腹痛を伴う、脱水が疑われるなどの場合は、医療機関への連絡が必要です。
薬剤師が行うべき服薬指導と介入
イリノテカンによる下痢は、単なる「よくある副作用」として放置すべきではありません。服薬指導の際には、以下の点を意識して対応しましょう。
✅ 事前に伝えておくべきポイント
- 下痢の種類とタイミング:早発性と遅発性の違い
- **早発性下痢時の症状(腹痛・発汗・徐脈など)**と、アトロピン前投与の理由
- 遅発性下痢が起きた際のロペラミドの使い方(タイミングと量)
- 脱水症状のリスクと、水分・電解質補給の重要性
- 医療機関への連絡基準(発熱、24時間以上持続、6回以上など)
✅ 特に注意すべき患者像
- 高齢者や全身状態が不良な患者
- 便秘傾向があるためと下痢を軽視してしまう人
- 下痢止め薬を自己判断で中断する人
下痢が治療継続を左右することもある
重度の下痢が続いた場合、治療スケジュールの遅延や、減量、中止に至る可能性もあります。QOLの低下だけでなく、がん治療の「効果そのもの」に影響を及ぼすため、早期の気づき・介入が極めて重要です。
薬剤師として、患者とチーム医療の架け橋となり、副作用管理のキーパーソンであることを忘れずに行動しましょう。
まとめ
分類 | 発現時期 | 主な症状 | 介入方法 |
---|---|---|---|
早発性下痢 | 点滴中〜数時間後 | 腹痛・発汗・徐脈など | アトロピン前投与 |
遅発性下痢 | 24時間以降〜数日後 | 持続性の水様便 | ロペラミド、脱水予防、緊急対応 |
おわりに
イリノテカン誘発性下痢の理解は、患者の安全と治療継続の両立に直結します。薬剤師が主体的にリスク管理を行い、患者・医療チームに有益な情報提供ができるよう日々アップデートを心がけましょう。

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